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精神科の薬はクセになるか? (10)

また、半減期(≒作用時間)が短いベンゾジアゼピン(睡眠薬、精神安定剤)ほど依存を生じさせやすいことが知られているため、治療初期から、定時処方の安定剤は長時間作用型の薬物を用いることが依存の成立を防ぐ上で有効な手段であると考えられています。

やや話が逸れますが、なぜか日本では短時間・中時間作用型のベンゾジアゼピンが好まれる傾向があります。

長時間作用型のベンゾジアゼピンの「はっきりとした効果を自覚しにくいが、気がついてみると不安の閾値が上がっている」という効き方よりも、「飲んで間もなく不安がすっと和らいでいく」という効き方のほうが薬効を実感できるという患者さんの声をよく聞きます。

そういった患者さんの嗜好と精神科医の常用量依存への認識の甘さが相俟ってか、わが国の精神科臨床におけるベンゾジアゼピンの使用は、欧米の基準で言えば「乱用」といってよい用量・投与期間に及ぶことが少なくありません。

依存の防止や改善を意図してベンゾジアゼピンの選択や早期からの減量が行われることはむしろ稀であり、多くの場合は本来の病気(うつ病や不安障害)が寛解した後もベンゾジアゼピンの離脱ができずに漫然と通院・服薬が継続されます。

薬を減らしたり止めたりしようとする努力が行われた場合でも、ベンゾジアゼピンの離脱法に関する知識がないために短時間作用型のベンゾジアゼピンを急に中止して反跳性不眠・不安(リバウンド)を生じさせ、常用量依存に関する知識がないためにそれを「原疾患の再発」と診断してさらに高用量のベンゾジアゼピンを投与するケースが、残念ながら珍しくない……というか、日常的に見受けられます。

精神科やそこで用いられる薬物に対する偏見や先入観のために患者さんの側が怠薬したり治療を自己中断してしまうことが臨床の場では少なくありませんが、それを糾すに足る力量が精神科医の側にあるのかと問われれば、自信を持ってイエスと答えることはできません。

精神医学の普及と向上のために、まずは医師の側が、かなり基本的なところから底上げを図らなければならないというのが、わが国の現状であるように思われます。

(この項終わり)

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コメント (1)

blue:

たいへん役にたちました。薬剤師をやっていて一番多い知人からの質問は、「病院で眠剤もらったけど、ずっと飲んでいてもだいじょうぶ?」といった たぐいですので。

今までは何て答えていたかって?
「薬を出した医師の言う通りです。」
と答えるように、と先輩に教わりました。

あしたから、こう答えます。
「説明に1時間かかるから、2000円でいいわ!」と。


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2006年12月27日 13:48に投稿されたエントリーのページです。

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