« ジプレキサと体重増加・糖尿病 (4) | メイン | ジプレキサと体重増加・糖尿病 (6) »

ジプレキサと体重増加・糖尿病 (5)

メンタルヘルスブログランキング 現在27位↑

ジプレキサの使用によって糖尿病を発症しなかったとしても,血糖値が正常範囲内で上昇しただけで,将来的な冠動脈性心疾患(CHD)および心血管疾患(CVD)の発症リスクが上昇し,生命予後が不良になることがケンブリッジ大学のKhaw医師らの研究によって明らかにされています(「糖尿病のない一般成人においても血糖値は低い方が望ましい」,Khaw, K-T. et al, Annals of Internal Medicine 2004; 141(6) : 413–420)。

CHDやCVDのような心血管系の疾患は,ゆっくりと,しかし着実に,数十年をかけて進行し,ある日突然致命的な状態を引き起こします。
イーライリリー社が「他の非定型抗精神病薬に比べてオランザピンは血糖上昇を引き起こすリスクがより高いことを初めて正式に認めた」という事実は,実は,「ジプレキサ(オランザピン)を長期に服用すると生命予後が悪くなる」と認めたということと同義なのです。

ちなみに,オランザピンはクロザピンという抗精神病薬を雛形として合成された化学物質です。
1960年代に開発されたクロザピンは,無顆粒球症や心筋炎という致命的な副作用を有しているにも関わらず,現在でもなお有効性の面では「最強」と目されている抗精神病薬です(ちなみに日本はこのクロザピンが認可されていない数少ない先進国の一つです)。

クロザピンの代謝系の安全性プロフィールは,兄弟物質であるオランザピンによく似ています(オランザピンでは無顆粒球症や心筋炎の心配はほとんどありませんが)。
オランザピンは「マイルドなクロザピン」とも呼べる薬なわけですが,このクロザピンについては非常に興味深い研究報告がなされています。

クロザピンはオランザピンよりも有効性が優れている反面,体重増加や血糖上昇といった代謝系の副作用についてもオランザピンを上回っています。
2001年に発表された“Estimating the consequences of anti-psychotic induced weight gain on health and mortality rate”という論文の中で,Fontaineらは,クロザピンを用いて100,000人の統合失調症患者さんを10年間治療した場合,その卓越した有効性のために492人の自殺を防ぐことができる一方,体重増加に伴う合併症のために416人の患者さんが死亡すると試算しています。

>>>ジプレキサと体重増加・糖尿病 (6)


>>>「メンタルクリニック.net」トップページへ




コメントを投稿

(いままで、ここでコメントしたことがないときは、コメントを表示する前にこのブログのオーナーの承認が必要になることがあります。承認されるまではコメントは表示されません。そのときはしばらく待ってください。)

About

2007年11月01日 12:59に投稿されたエントリーのページです。

ひとつ前の投稿は「ジプレキサと体重増加・糖尿病 (4)」です。

次の投稿は「ジプレキサと体重増加・糖尿病 (6)」です。

他にも多くのエントリーがあります。メインページアーカイブページも見てください。